破戒

 

仕事への思いを書き記す余裕もないほど今日まで多忙な日々を駆け抜けてきた。

要因の一つは大規模災害への対応である。

9月末以降は、台風と地震で甚大な被害を受けた近畿圏へ赴き、個別の契約者に対し訪問対応を休みを削っておこなった。

3連休なども全て捧げたため給与は通常よりも多くなったが、心身に変調をもたらすことにもなった。

被災地から帰った後から、絶え間なく続く動悸と毎晩の不眠に苦しんだ。

身体にはっきりと表れてきたことで自身の限界を感じた。

「このままでは壊れてしまう。」

深い谷底へ突き落されるような恐怖を感じた。

周囲への迷惑とか人事評価など顧みる場合ではなく、行動を取らなければと思い立った。

そして人生で初めて精神科に足を運んだ。

医師から不安障害と告げられ、薬を処方された。診断書を出して休職させるほどのレベルではないと思われたらしい。経過を見て今後を判断する旨伝えられた。

幸いその後お世話にはなっていないが。

 

ただ診察を受けるまではかなり抵抗があったことを覚えている。

他者評価という名の戒律が心に影を落としていたのかもしれない。

 

人は追い込まれたときに冷静な判断ができない。

一番冷静になるべきところで極端な方向に走ってしまうことすらある。

東大卒の若手電通社員が過労死した事件があった。

私より何倍も聡明な人材であるだろう彼女ですら判断を誤ってしまった。

言うまでもなく転職や休職等、選択肢は無数にあったはずなのに。

しかし、その弱さこそ人間の本質的な部分であって、換言すればただ徒に生きるのではなく、より良い暮らしを望む向上心の裏返しでもあるのではないだろうか。
しかし豊かに生きる未来を希求する前に、大雨で足元の地盤が緩んだならば、まずは立ち止まって傘をさそう。雨が去りまた陽が昇るまで。